無題

 

後輩が淡々と言う。

「今平さんが頑張っていたことは本当に頑張ってたんですか?それは彼の為になったんですか?ただ自分が頑張っていたって、相手が望んでいないのであれば何にも意味が無いんですよ、重たくないように、重たくないようにってSNSに走ったってそれは彼が望んでたんですか?そのまま重たいよ俺ーーーって曝け出しちゃった方が良かったんじゃないですか?」

 

その通りだと思う。やっと話せた、いろんな事。

「お客さんからは褒められて、従業員やいろんな人に気も使えて、素晴らしいと思ってます。でもどうしてそこだけダメなんでしょうね」

「自分自分ってなっちゃってるから、いろんなものが見えてないんだと思います。きっといろんなもの貰いましたよね?優しくしてくれましたよね?それを受け取るのが下手くそなんです」

「彼が本当はどう思ってたか、どうしてそういうことをしたのか、確かに全部考えるなんて無理ですけど、彼なりに考えて大事にしようと思って、苦しんでたことは事実です。それをその時に汲んであげられなかったんですよね、どうしよう、自分は自分はってなってたから」

「相手は傷つけられるって思ったんだと思います、全く逆のつもりでも、今平さんがどう頑張ったって伝わらないんです、望んでないんだから。相手が頑張って向き合おうとしてくれてたのを今平さんがわかったのは、今平さんがそれを望んでたからです。ちゃんと向き合って汲んでくれたんです、努力してくれたんです。向こうは今平さんに頑張ってって言いましたか?きっと言ってませんよね?でも一人で頑張ってたんですよね?それって意味ありましたか?お互いの為になりましたか?」

 

 

「あなたが今苦しんでることを向こうは望んでると思いますか?自分ならどうですか?嫌ですよね?自分より向こうの幸せを願うくらいなのに、なんで逆になるとそれがわからないんですか?3ヶ月も経って毎日泣いて、酔ってあてもなく彷徨って、それを向こうは望んでましたか?今の自分でいいと思いますか?何を頑張ってるんですか?前に進めてますか?」

 

痛かった。

最後のLINEに幸せになってって書かれてた事をずっと思い出してた。

幸せになりたい、もう泣きたくない、毎日ちゃんと眠れるようになりたい、いつも思う。でも、元気に毎日過ごしてしまうことで全部終わってしまうと思ってた。苦しんで苦しんで思い続けてればまだ自分の中だけでも続いてる気がしてた。心から笑ってしまったら、そこで全部終わっちゃうと思ってた。幸せなんてどこにもない、一緒になりたい、ずっと忘れたくない、どれだけ苦しくても。でもそんな頑張り向こうは望んでない。何も望んでない。

あの時から、離れてからも自分ばっかなんだ、だからダメなんだ、ずっとダメだったんだ、ダメなままなんだ。

今更、その時の相手の気持ちが自分の中に入って来た気がした。遅い、全部遅い。なんでこの人なんだろう、なんでもっと前にわかってなかったんだろう。なんで今なんだろう、なんでずっと気付けてないんだろう、嫌だな自分、すごい嫌だ。

 

 

「真っ直ぐで、重くて、気持ち悪いです、妖怪だと思います、でもそれでいいと思います、そのまんまでよかったんだと思います。何も作らなくてよかったんです、頑張らなくてよかったんです」

 

今まで何度も何度も考えて、いろんな事を知って、気付いて、その度に痛くて、泣いた。ずっと失恋し続けてた。痛かった。ずっと痛かった。

後輩の言葉でいろんな事に納得がいった。今までで一番痛くて、救われた。

 

 

あの人は優しかった、いつも優しかった。意地悪な事も言われたけど、試されたけど、優しかった。いっぱい考えてくれてた。何よりもかっこよくてかわいかった。彼だったらなんだってよかった。全部が愛おしい、もうここに無くても。全部が愛おしい。ありがとうもごめんねも届かない。もう何も無いけど。何にも無いけど。ただ、全部が愛おしい。